それは、私が一人暮らしを始めてまだ間もない頃のことでした。その日は仕事で疲れて帰宅し、シャワーを浴びて寝ようとした深夜のことです。トイレの水を流した後、いつもなら静寂が戻るはずの部屋に、聞いたことのない音が響き渡りました。「ブーーン」という、低く、長く続くうなり音。まるで小型のモーターか何かが壁の向こうで回り続けているような不気味な音でした。最初は隣の部屋の物音かと思いましたが、音は明らかに自宅のトイレの中から聞こえてきます。恐る恐るトイレのドアを開けてみると、音はさらに大きくなりました。タンクの中を覗いてみましたが、暗くてよく分かりません。音は数分間続いた後、ふっと静かになりました。しかし、その夜はもう一度トイレを使うのが怖くなり、朝まで我慢してしまいました。翌朝、恐る恐る水を流してみると、やはり同じ「ブーン」という音が鳴り響きます。今度は明るい中でタンクの蓋を開けて観察してみると、水が溜まりきる直前、給水が止まるか止まらないかのタイミングで、給水管につながる部品が細かく振動し、音を立てていることがわかりました。スマートフォンで「トイレ 異音 ブーン」と検索してみると、原因はボールタップという部品の劣化がほとんどだと書かれていました。自分で修理することも可能だとありましたが、賃貸物件だったことと、万が一水漏れでも起こしたら大変だと思い、すぐに管理会社に連絡しました。事情を説明すると、すぐに提携している水道業者さんを手配してくれました。到着した業者さんは、手際よくタンクの中を点検し、「ああ、やっぱりボールタップのパッキンが古くなっていますね。これが振動して音を出していたんですよ」と原因を特定してくれました。部品の交換作業は三十分もかからずに終了し、試しに水を流してみると、あの不気味なうなり音は嘘のように消え、いつもの静かなトイレに戻っていました。あの時の安堵感は今でも忘れられません。トイレの異音は、素人が甘く見ていると大きなトラブルにつながる可能性があるのだと身をもって学んだ出来事でした。
ある夜トイレから鳴り響いた謎のうなり音