長年、水道修理の現場で数え切れないほどのトイレトラブルを見てきた経験から言えることは、床の水漏れ被害の多くは、日々のちょっとした習慣で防ぐことが可能だということです。プロの視点から見て、最も避けてほしいのは「トイレの床を常に密閉すること」です。多くの方がトイレマットを敷き、便器と床の隙間にシリコンなどでコーキングをして、汚れが入らないように工夫されています。しかし、これは水漏れの発見を遅らせる最大の要因になります。マットは漏れ出した水を吸収して隠してしまい、コーキングは内部で漏れた水を外に出さないため、気づいた時には床下が腐っていたという悲劇を招きます。プロがお勧めするのは、床には何も敷かず、毎日一度は素手、あるいは薄いシートで便器の付け根をぐるりと一周拭き掃除することです。手に伝わる湿気や違和感は、どんな高価なセンサーよりも正確に異常を検知します。また、掃除の際には、止水栓の周りに緑色や白色の粉のようなものが付いていないかを確認してください。これは青錆や石灰分が固まったもので、目に見えない微細な漏水が続いている決定的な証拠です。次に、トイレの流し方にも注意が必要です。レバーを乱暴に操作したり、何度も連続して流したりすることは、配管に急激な圧力をかけ、接続部のパッキンを痛める原因になります。特に、節水のためにタンクの中にペットボトルを入れるような行為は絶対にやめてください。水量が不足して便器内に汚れが残りやすくなるだけでなく、タンク内の部品がペットボトルに干渉してオーバーフローを引き起こし、それが外へ漏れ出す原因になります。さらに、定期的に止水栓を少しだけ動かしてみることも大切です。いざという時に止水栓が固着して回らないと、被害は瞬く間に広がります。半年に一度で良いので、少し閉めてからまた開けるという動作を行うだけで、緊急時の対応力が格段に向上します。トイレは家の中で最も働き者の設備ですが、その分、定期的な労わりが必要です。プロを呼ぶ事態になる前に、自分で行う「五感を使った点検」こそが、快適な住環境を維持する最良の防衛策なのです。