あれは、仕事で疲れ果てて帰宅した金曜日の夜のことでした。トイレを流した際、いつもとは違う違和感を覚えたのです。水位が便器の縁の数センチ下までせり上がり、数分間そのままの状態が続きました。しかし、着替えを済ませて再び覗いてみると、水位は元通りになっていました。私は「なんだ、やっぱり自然に流れるじゃないか」と自分に都合よく解釈し、週末の解放感も手伝って、その問題を深く考えずに放置してしまいました。土曜日になっても、流すたびに一度水位が上がり、ゆっくりと引いていくという状態が続きましたが、私はその不気味な現象に慣れてしまい、むしろ「時間を置けば大丈夫」という誤ったルールを自分の中に作ってしまったのです。しかし、悲劇は日曜日の朝に起こりました。朝一番でトイレを使用し、レバーを引いた瞬間、今までとは明らかに違う「ゴボッ」という鈍い音が配管の奥から響きました。水は引くどころか、恐ろしい勢いで水位を増し、私が叫び声を上げる間もなく、便器の縁を超えて床へと溢れ出したのです。床に広がっていく汚水を前にして、私はただ呆然と立ち尽くすしかありませんでした。慌ててバスタオルを敷き詰めましたが、一度溢れ出た水の量は想像以上に多く、トイレのドアを越えて廊下にまで浸水していきました。さらに追い打ちをかけるように、階下の住人から「天井から水が漏れてきている」という連絡が入ったのです。パニック状態で水道業者を呼びましたが、日曜日の早朝ということもあり、到着までには一時間以上の時間を要しました。業者の作業員の方が到着し、便器を取り外して調査した結果、排水管の奥で数日分蓄積されたペーパーと、おそらく数日前に無意識に落としたであろう小さなプラスチックの蓋が、巨大なダムのような塊を作っていたことが判明しました。少しずつ流れていた数日間、私はそのダムにせっせと材料を供給し続け、決壊を早めていただけだったのです。最終的に、階下の住人への謝罪と天井の補修費用、そして自分自身の部屋のクリーニング代と高額な緊急修理費用を合わせると、給料一ヶ月分では到底足りないほどの損害を被りました。あの日、最初に違和感を覚えた瞬間に放置せず対処していれば、数千円の道具や数万円の基本作業代で済んでいたはずです。少しずつ流れるという状況を「まだ大丈夫」と捉えることが、どれほど愚かで取り返しのつかない結果を招くか、私は身をもって知ることになりました。
水が少しずつ流れるトイレの異常を放置して大惨事を招いた私の苦い経験