築四十年に差し掛かるマンションの理事会を運営する中で、最も頭を悩ませるのが水漏れ事故への対応です。先日も、三階の住戸のキッチン下から漏水し、二階の住戸の豪華なシステムキッチンと床材を台無しにするという騒動がありました。私は理事長として、管理組合が加入しているマンション総合保険で解決できると考えていましたが、現実はそう甘くはありませんでした。保険会社の鑑定人が現場を調査した結果、原因は専有部分を通る給湯用の銅管が、長年の使用によって全体的に薄くなり、そこから水が染み出したものだと判明しました。鑑定人の報告書には、経年劣化による免責という言葉が冷酷に記されていました。上階の住人は、まさか自分の保険も組合の保険も使えないとは思ってもみなかったようで、非常に困惑していました。被害を受けた二階の住人への損害賠償だけでも数百万円に上り、その全額を個人で負担しなければならないという現実を前に、住民同士の感情的な対立も激化しました。管理組合としては、共用部分の縦管の更新は計画的に行ってきましたが、専有部分の床下の枝管までは手を出せていなかったのです。この一件以来、私たちは管理規約を改正し、専有部分の配管更新を義務化するか、あるいは組合で費用の一部を補助する制度の検討を始めました。保険は万能ではなく、特に古い建物においては経年劣化という壁が非常に高いことを痛感しました。多くの住民は、保険料を払っていればどんな損害も補填されると信じていますが、そこには突発性という高いハードルがあります。錆びてボロボロになった配管からの水漏れを、保険会社が事故と認めることはまずありません。老朽化マンションにおける水漏れ対策は、もはや個人の問題ではなく、建物全体の資産価値を守るための経営課題として捉える必要があります。配管の劣化を放置することは、無保険状態で自動車を運転するようなリスクを全住民に強いているのと同じです。私たちはこの苦い経験から、保険だけに頼るのではなく、目に見えないインフラの健全性を保つことこそが、住民の平穏な生活を守る唯一の道であると学びました。現在は、全戸の配管診断を実施し、順次更新を進めるための長期修繕計画の立て直しに奔走しています。